石原太流さんを偲んで

 10月21日逝去、78歳

 神奈川を拠点に活動した書家、石原太流さんが亡くなりました。飾らない人柄。徳野大空が創設した玄潮会を率い、病床にあっても最期まで筆を手にし続けたといいます。石原さんと親交のあった毎日新聞の山本修司・執行役員営業総本部長(元横浜支局長)が「書のひろば」に追悼文を寄せました。
 
中国の天津で開催された「第12回国際書法交流大展」で、各国・地域の代表とともに揮毫する石原さん(左)=2016年9月22日

石原太流さんと「瓊瑶世界」

毎日新聞社執行役員 山本修司

 10月21日、78歳でお亡くなりになった石原太流さんによるすぐれた書作品を挙げればきりがありませんが、訃報に触れて悲しみに暮れる中でふと浮かんだのは「瓊瑶(けいよう)世界」という書でした。
 私が横浜支局長だった2013年2月、駐横浜韓国総領事館総領事の李壽尊(イ・スジョン)さんからこの言葉を教えられました。「瓊」「瑶」はいずれも「玉」を表す文字。「二つの玉は互いに光を照らしあって、さらにその輝きが増す」という意味で、朝鮮通信使は二つの玉を日韓両国に見立て、末永い友好親善を願ったといいます。李さんは総領事館に茶室をしつらえ、日韓の書家が揮毫した「瓊瑶世界」を「二つの玉」として飾りたいと願っていました。そのことを「支局長だより」というコラムに書いたところ、掲載された日の朝一番に石原さんからお電話をいただきました。
 「新聞読みましたよ。とてもいい言葉ですね。瓊瑶世界、ぜひ私に書かせてください。謝礼なんていりません。寄贈します」
 すぐに李さんに伝え、石原さんについて「地元神奈川在住で、漢字を得意とする大書家」と説明すると、「そんな素晴らしい方が、しかもこんなに早く」と声を弾ませました。私は異動したためこの年の4月30日にあった贈呈式には出席していないのですが、石原さんは「『両国が互いに光を放ち、さらに美しくなる』との言葉に共感しました。簡単ではありませんでしたが、歴史の重さを思いながら、何とか書けました」と語ったそうです。石原さんらしい、飾らず素朴で、ゆったりとした重みのある言葉で、じかに聞いたような気がしてきます。
 「瓊瑶世界」は数ある作品の中のほんの一点ですが、「言葉への共感」「旺盛な創作意欲」「人と人をつなぐ縁」など石原さんらしさがふんだんに盛り込まれています。もうお会いできないのは残念でなりませんが、石原さんが残された書作品を見て、その都度お人柄をしのんでいきたいと思います。ご冥福をお祈りします。
 
 

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